善光寺だけでは片参り!もう一つは元善光寺?北向観音?どちらが正しい?

善光寺だけでは片参り



善光寺だけでは片参り

日本最古の仏を安置する全国屈指の寺院が「信州善光寺」です。

2022年には7年に1度となる御開帳が行われており、全国から多くの参拝者によって賑わっています。

ところで、「善光寺だけでは片参り」と聞いたことはありませんか?

このフレーズ、実は「元善光寺」(長野県飯田市)と「北向観音」(長野県上田市別所温泉)で使われているものなのです。

それぞれ、どのような理由によって善光寺だけでは片参りと語り継がれているのか、それぞれご紹介していきます。

もし関心があれば、善光寺参拝だけでなく「元善光寺」または「北向観音」へ参拝して、両参りを実現してください。善光寺と元善光寺と北向観音の3つはいずれも長野県にありますので、全てに参拝すれば尚ご利益が期待できるでしょう。

信州善光寺について

信州善光寺の本堂

日本最古の仏を祀るのが信州善光寺(長野県長野市)で、創建から1400年の歴史があります。

御本尊は、一光三尊阿弥陀如来で、絶対秘仏として過去にもこれからも永久に公開されることはありません。代わって、7年に1度公開されるのが御本尊の身代わりとされる前立本尊です。前立本の公開を御開帳と言います。

御開帳では多くの参拝者が善光寺を訪れ、2015年の御開帳時には707万人もの参拝者が訪れました。

本堂は国宝であり、日本を代表する寺院と言えます。

【元善光寺】善光寺だけでは片詣り「一度詣れよ 元善光寺」

元善光寺(長野県飯田市座光寺)は、本多善光ゆかりの寺として知られています。

2022年元善光寺御開帳
撮影:2022年元善光寺御開帳

※本多善光は、本田善光とするのが一般的ですが、元善光寺では本多と表記します

本多善光は、善光寺の創建者であり、善光寺という名称は、本多善光の「善光」から取られたと言われています。

今からおよそ1400年前、信州麻績の里(現在の飯田市座光寺)に住む本多善光が、阿弥陀如来様の声に呼び止められ、阿弥陀三尊像を家に持ち帰ったのが善光寺の始まりとされています。善光は家に臼を置き、その上に阿弥陀仏を祀って信仰、その後に如来様のお告げを受けて御本尊は長野市へ移りました。

その後も、飯田に残された台座の臼からは光が放たれており、その善光の家の近くに建立されたのが今日の元善光寺と伝わっています。

もともと阿弥陀如来様は元善光寺にいたのだから、あるいは、善光寺が元あったのは元善光寺だから、あるいは、元善光寺が善光寺の始まりだから、といった理由で、信州善光寺だけでは片参りであり、元善光寺へも一度は詣れよ、と言われることがあります。

これらはどれも誤りということではありませんが、本来の言い伝えは次のようなものです。

御本尊の如来様が、「毎月半ば十五日間は必ずこの麻績の古里に帰りきて衆生を化益せん」との宣願を残された

元善光寺の御詠歌にも、次のようなことが書かれています。

元善光寺の御詠歌

月半ば毎にきまさん弥陀如来、誓いぞ残る麻績の古里
信州飯田 上額山 元善光寺

全国各地に100以上の善光寺が存在しますが、その中でも信州善光寺と特にゆかりの深い寺が同時に御開帳を行う「六善光寺同時御開帳」があります。

元善光寺はこの六善光寺の中に含まれており、信州善光寺との関係も深いものと考えられ、また、令和四年善光寺御開帳公式ガイドブックにも「善光寺だけでは片詣りー「一度詣れよ元善光寺」」と紹介されていることから、いわば言い伝えを信州善光寺も認めているかのような印象です。

元善光寺ついてはこちらに詳しく紹介しています。

2022年元善光寺御開帳時の回向柱

信州善光寺と元善光寺の両参り

言い伝えから、信州善光寺と元善光寺の両参りを行おうと思っても、両寺院の距離はかなり離れています。

善光寺から元善光寺までは、自動車で3時間程度の距離です。午前中に善光寺へ参拝して、午後に元善光寺を参拝してというのが可能なように思えますが、実際には順調に移動できるかどうかわかりませんし、昼食時間や休憩などを考えれば、1日で両参りを実現するのは難しいでしょう。

【北向観音】現在と未来の片方だけですと片詣り

北向観音(長野県上田市別所温泉)は、厄除けのご利益を得られるとして知られています。

北向観音堂(長野県上田市別所温泉)

寺院は一般的に南向きに建立されますが、北向観音堂は北向きとなっており、このため「北向観音堂」と呼ばれています。

北向観音は、近くにある常楽寺の伽藍のひとつで、常楽寺によって管理・運営され護持されています。

御本尊は、千手千眼観世音菩薩です。

さて、善光寺だけでは片参りと言われる理由に、「善光寺と北向観音が向き合っているため両方参らないと片参り」というものがあります。

これは誤りということではありませんが、北向観音が善光寺と向き合うように建立されたという経緯はないことに注意が必要です。

北向観音の本坊である常楽寺との距離は400メートル程度であり、両寺は南北に向き合っています。

つまり、北にある常楽寺を本坊に、南にある北向観音が向き合うように建立されているのであって、善光寺と向き合うように北向観音が建立されている(位置付けられている)ということではありません。

とはいえ、結果的に善光寺と北向観音が向き合っていることは事実であるため、向き合っている事実を基に「片参り」というのは完全な間違いとは言えないとも言えます。

本来の言い伝え

北向観音へも参拝しないと片参りと言われるのは、実は「ご利益」にあります。

北向観音の御本尊は千手千眼観世音菩薩様ですが、千手観音様は人々を救う手が多いため、ご利益が多いとされており、災難除け、病気平癒などあらゆる現世利益を網羅していると言われます。ここでポイントになっているのは、北向観音は「現世」でのご利益を得られるというところです。

信州善光寺の御本尊は阿弥陀如来様ですが、阿弥陀如来は極楽浄土へ導いてくれる来世利益にご利益があります。善光寺は未来へのご利益を得られることができるのです。

このため、現世(現在)と来世(未来)のどちらかだけでは片参りと言われるようになり、ここに、南向きの善光寺と北向きの北向観音が向き合っていることから、両参りが良いと言われるようになったのです。

信州善光寺と北向観音の両参り

信州善光寺と北向観音は、車で2時間程度です。

スムーズに移動できれば、1日で両参りは可能です。

北向観音は、信州の鎌倉とも言われている別所温泉にありますので、別所温泉に宿泊してゆっくり参拝するのもおすすめです。別所温泉のほか、鹿教湯温泉なども近くにあります。

また、北向観音は、電車でも参拝することができます。近くに別所温泉駅があり、信州善光寺がある長野駅からは乗り換えが必要ですが、電車で向かうこともできます。

まとめ

このように見ますと、元善光寺と北向観音への両参りの言い伝えや意味には違いがあることが分かります。

善光寺縁起(善光寺の始まり)という言い伝えの中から元善光寺との両参り、ご利益とお堂の向きという事実の中から北向観音との両参り、が伝えられてきたように感じられます。

いずれにしても、両参りすることが悪いということはないわけですから、信州善光寺も、元善光寺も、北向観音もすべて参拝できれば一番良いと言えるのではないでしょうか。