そもそも回向柱とは何ですか
善光寺御開帳のシンボルとも言えるのが「回向柱」です。
とはいえ、7年に1度しか現れないこの柱、いったいどんな役割を担っているのか分からないという人も多いかもしれません。
回向柱は善光寺御開帳にとって非常に重要な存在なのですが、その役割などについて紹介しますので、善光寺御開帳参拝の際には意味を理解したうえで「触れる」ことでより多くの御利益を得られるものと言えるでしょう。
回向柱について
回向柱の読み方
回向柱は「えこうばしら」と読みます。
回向柱の大きさ
善光寺本堂前に建立される回向柱は、1尺5寸角(およそ45センチ幅)、高さ33尺(約10メートル)の大きさがあります。
重さは1トンほどあるとされており、特に善光寺本堂の回向柱はその規模から「大回向柱」と呼ばれることがあります。
伝統的にはアカマツを用いるのが習わしと言われていますが、2022年の御開帳ではスギが用いられています。
回向柱の2つの意味
善光寺の御開帳で建立される回向柱には2つの意味があります。
阿弥陀如来(前立本尊)と参拝者をつなぐ
本堂前の回向柱には布が巻かれています。
その布は本堂へと伸びています。
本堂の中では、回向柱から伸びた布は、五色の紐に変わり、さらに金の糸になり前立本尊の右手中指とつながっています。
五色の綱は「善の綱」とも呼ばれています。青・黄・赤・白・黒の五色の糸を撚ったものです。
回向柱だけを見ると白い布しか見えませんが、本堂の内陣から前立本尊を参拝すると、前立本尊の右手中指に結んだ金の糸が本堂前広場に向かって本堂の天井を這っており、途中から五色の糸に繋がり、本堂外に出るところで白い布に結ばれ、それが回向柱に繋がっています。
善の綱は、阿弥陀如来が私たちに差し伸べられた「慈悲の光」を象徴するとともに、私たちから阿弥陀如来へと向けられた「願い」をも象徴していると言われています。
このように、回向柱は善の綱によって前立本尊と繋がっていることから、回向柱は「前立本尊阿弥陀如来」のいのちを宿すものであるため、回向柱に触れることは阿弥陀如来との結縁を結ぶことができるというわけです。
結縁とは、仏様との縁ができることを言います。
回向柱は大きな卒塔婆
回向柱は、それ自体にも意味があるとされています。それは「卒塔婆」(そとば)の一種であるということです。
一般的に卒塔婆といえば、お墓の脇に立てる細長い板材をイメージすると思います。
しかし、卒塔婆とはもともとはお釈迦様の遺骨を納めた土まんじゅう型の仏塔「ストゥーパ」を表す言葉でした。これが後に仏様のいのちの象徴とされるようになり、さまざまな形のものができ、回向柱は角塔婆と呼ばれるものに該当することになります。
回向柱の上部には刻みが見られます。
これは五重塔をかたどったものです。密教では、宇宙を構成する「空」「風」「火」「水」「地」の五要素が完全な姿で存在する様子を五重塔で表すようになり、「宇宙に満ち満ちる仏さまのいのち」をも表現するようになったのです。
回向柱には何が書かれている?
回向柱には梵字と経文が書かれています。
回向柱の上部には、梵字五文字で「キャ・カ・ラ・バ・ア」と書かれています。これは、宇宙の構成要素である「空」「風」「火」「水」「地」の意味があり、仏法が宇宙をあまねく照らしていることを表しています。
また、正面には「奉開龕前立本尊」と書かれています。
龕(がん)は「厨子(ずし)」を意味しており、奉開龕前立本尊とは、宇宙に前立本尊の御開帳を高らかに表明しているのです。
他の面にはつぎのような文字が書かれています。
この面には、「光明遍照十方世界念佛衆生摂取不捨」と書かれています。
この面には「國家豊寧萬姓快樂佛日増輝含靈普潤」と書かれています。
この面には、「維時 令和四年四月三日 一山大衆 敬白」と書かれています。
善光寺御開帳時に本堂前に建立された回向柱に書かれた文字を整理すると次のようになります。
- 正面:「奉開龕前立本尊」
- 西(如来の救済):「光明遍照十方世界念佛衆生摂取不捨」
- 東(如来の功徳):「國家豊寧萬姓快樂佛日増輝含靈普潤」
- 北:「維時 令和四年四月三日 一山大衆 敬白」
回向柱のお守りを買うともらえる袋に詳細説明があります
回向柱に書かれた梵字や経字に関して詳しいことは、善光寺御開帳限定で頒布される回向柱のお守りを購入するともらえる袋の裏面に書かれています。
この袋には、回向柱に書かれた梵字・経字の意味が書かれています。
- 正面:「奉開龕前立本尊」
(ホウカイガンマエダチホンゾン)
(前立本尊の厨子の扉を開き奉る) - 西(如来の救済):「光明遍照十方世界念佛衆生摂取不捨」
(コウミョウヘンジョウ ジッポウセカイ ネンブツシュジョウ セッシュフシャ)
(前立本尊の慈悲に満ちた光は、普く世界を照らしだし、念仏を称えるもの全てを等しく受けとめ、決して捨てることはない) - 東(如来の功徳):「國家豊寧萬姓快樂佛日増輝含靈普潤」
(コッカホウネイ バンショウケラク ブツニチゾウキ ガンレイフジュン)
(国が豊かでやすらかであり、全ての人々が楽しく幸せに暮らせるように、み仏の光は輝きを増し、あらゆるものを潤す) - 北:「維時 令和四年四月三日 一山大衆 敬白」
お守りでは、ここは(家内安全・商売繁盛・善光寺)となっています。
他の善光寺では何が書かれているのか
善光寺と称するお寺は全国に存在しており、信州善光寺と同じように御開帳を行う善光寺が存在します。
2022年には30を超える全国の善光寺で御開帳を行うものとされていますが、特に信州善光寺にゆかりのある5つの善光寺では「六善光寺同時御開帳」を行っています。
ここでは、信州善光寺以外の5つの善光寺では、回向柱にどのようなことが書かれているのかをご紹介します。
六善光寺は、次の善光寺を言います。
- 信州善光寺(長野県長野市)
- 元善光寺(長野県飯田市)
- 甲斐善光寺(山梨県甲府市)
- 祖父江善光寺東海別院(愛知県稲沢市)
- 関善光寺(岐阜県関市)
- 岐阜善光寺(岐阜県岐阜市)
元善光寺(長野県飯田市):2022年元善光寺御開帳
2022年元善光寺御開帳の回向柱には、上部から梵字に続いて次の漢字が書かれています。
・奉修本尊如来開扉供養
・光明遍照 十方世界
・念佛衆生 摂取不捨
・維持令和四年壬寅 山主敬白
甲斐善光寺(山梨県甲府市):2022年甲斐善光寺御開帳
2022年甲斐善光寺御開帳の回向柱には上部に南無阿弥陀佛が、次いで漢字が書かれています。
・奉修善光寺如来開扉供養之宝塔
・如来十方来人皆
・天下和順 日月清明 国豊民安 兵戈無用
・令和四年四月三日建之
祖父江善光寺東海別院(愛知県稲沢市):2022年善光寺東海別院御開帳
2022年善光寺東海別院御開帳時の回向柱には、上部に梵字、次いで感じが書かれています。
・奉開龕本尊如来
・光明遍照十方世界念佛衆生摂取不捨
・世界平和萬民豊樂佛日増輝含霊普潤
・令和四年四月 双蓮山 善光寺
関善光寺(岐阜県関市):2022年関善光寺御開帳
2022年関善光寺御開帳時の回向柱には、上部に梵字が、次いで漢字が書かれています。
・奉開龕善光寺如来
・光明遍照 十方世界 念佛衆生 摂取不捨
・国家豊寧 萬姓快樂 佛日増輝 含霊普潤
・維持 令和四年吉日 山主敬白
岐阜善光寺(岐阜県岐阜市):2022年岐阜善光寺御開帳
2022年岐阜善光寺御開帳時の回向柱には、上部に梵字が、次いで漢字が書かれています。
・奉開扉本尊善光寺如来
・家内安全 心身堅固 報恩謝徳
・厄難消除 当病平癒 諸願成就
・南無大師 遍照金剛 令和四年四月三日建立
六善光寺同時御開帳に関しての詳細は関連記事を確認してください。
回向柱に触れる
回向柱の意味を理解したうえで回向柱に触れることで、より回向柱のダイナミズムを体感することができるのではないでしょうか。
写真ではなかなか伝えにくいのですが、回向柱に触れた瞬間、なんとも言えない感覚になるのは、やはり善光寺は特別な存在であるということの証なのだと言えます。
大人気の回向柱
善光寺の回向柱に触れることができるのは、7年に1度だけ。それも、たったの2か月(2022年は3カ月)という限られた期間であることから、たいへん混み合います。
御開帳期間中で最も混むと言われる大型連休中の待ち時間はどの程度だったと思いますか。
2022年5月4日の各施設待ち時間です。
回向柱は、最大で150分の待ち時間となっています。柱に触れるだけで2時間30分待たなければならないということです。それだけ、回向柱に触れるというのは、多くの参拝者が待ち望んでいたことなのです。
善光寺の御開帳では回向柱に触れる以外にも重要な行事・イベントがあり、前立本尊を目の前で参拝することのできる「前立本尊参拝」は最大100分、真っ暗闇を進んで御本尊様と結縁する「お戒壇巡り」は100分、大人気の「御朱印」をいただくのに120分、これらのどれよりも回向柱は最大となる150分待ちとなっており、最も人気があることが分かります。
回向柱に触れるのは料金は掛かりませんが、混雑していることは予め知っておく必要があります。
善光寺御開帳の混雑状況はこちらで確認してください。
コロナ対策
回向柱に触れることでご利益を得られることが分かっていても、新型コロナウイルス感染症も再拡大の傾向が見られるなかで、回向柱に触れることに躊躇するという方もいるかもしれません。
善光寺では、新型コロナウイルス感染症が終息しない中で行う御開帳においては、万全のコロナ対策を行った上で執行しています。
回向柱に関しては、抗ウイルス光触媒コーディングを行うことで安全性を高めています。コーディングは御開帳期間中に3回行うものとしています。
また、回向柱に触れる面を制限し、回向柱に触れる際には「消毒」を行うものとしています。
現場では、警備員がしっかりと案内を行っていますので、安心して回向柱に触れることができるものといえます。
2022年4月11日現在、回向柱には「片手で」触れることが求められています。
回向柱は一辺45センチもある巨大な柱ですから、両手で触りたくなりますが、ここはグッと我慢しましょう。
混雑状況
善光寺御開帳のシンボルともいえる回向柱は、やはり御開帳参拝時には必ず触れたいものとしてみんなお考えのようです。
そのため、混雑する時間帯には行列ができます。
混雑する時には、山門前に臨時開設された「御開帳案内所」まで回向柱の最後尾が伸びることがあります。
ただし、これは週末のお昼など、混雑する条件が揃った時だけで、早朝や夕方はほとんど人が並んでいないこともあります。
混雑しているのを避けたい方は、平日の早朝や夕方を狙っていけば、人混みを避けて待ち時間もなく回向柱に触れることができるでしょう。
なお、善光寺山門前から並んでいる場合には、1時間程度の待ち時間となります。
回向柱は東西のみ二面しか触れることができませんが、警備員の案内もあって、比較的スムーズに参拝列が進んでいきます。
回向柱の新型コロナウイルス感染症対策について気になる方はこちらでまとめてありますのでチェックしてください。
釈迦堂(世尊院)の回向柱
善光寺御開帳では、善光寺本堂前ともう一本、釈迦堂(世尊院)にも回向柱が建てられます。
実は、釈迦堂の回向柱に触れることの方が価値が高い!というような人も多いのかもしれません。忘れずに触れておきたい回向柱です。
詳しくはこちらをご覧ください。
回向柱の建立
1トンもある回向柱、建立時には昔ながらの人力によって本堂前に建てられるのですが、その様子は「回向柱建立式」のレポートで紹介しています。